イーモリぃ〜、見てくれよ、あの地球人。オフィスでずーっとパソコンの前に座ってるぞ。もう何時間も経つのに、デスクの上の水にまったく手をつけてないぞ!
ああ、あの男性か。確かに、デスクの上にペットボトルがあるのに、まったく手をつけていないね。
まあ、水なんて飲まなくても死にはしないだろ? 僕だって漫画に夢中になると半日くらい何も飲まないことあるぞ!
……ヤーモリ、それ、かなり危険だよ。実は、水分が不足すると脳が物理的に『縮む』んだ。
はぁぁぁ!? 脳が縮む!? 嘘だろ!?
嘘じゃないよ。2012年にStreitbürgerらがPLOS ONEに発表した研究では、健康な若者6名が3日間のプロトコルで厳しい飲水制限(1日150ml程度)を受けた後、MRIで脳を撮影したところ、灰白質の体積変化が観察されたんだ。ただしこれは非常に小規模な研究で、脳室拡大についてはすべての条件比較で統計的に有意だったわけではない点には注意が必要だよ。
脳室が拡大って……脳が小さくなって、隙間ができたってこと!?
そういうことだね。人間の脳は約75%が水分でできている。だから体の水分が減ると、脳細胞そのものが収縮して、脳の体積が減少するんだ。
75%が水って……脳ってほぼ水じゃん! 豆腐みたいなもんか!
まあ、例えは微妙だけど、間違ってはいないかな。さらに驚くべきことに、Kemptonらが2011年にHuman Brain Mappingに発表した研究では、平均16.8歳の青年10名を対象に、運動による脱水でも脳の構造変化が観察されたんだ。
た、たった数時間で!? じゃあ夏場に水を飲まずに外をうろうろしてたら、僕の脳もどんどん縮んでいくのか!?
可能性はあるね。ただ安心してほしいのは、この変化は『可逆的』なんだ。水を飲めば脳は元に戻る。Billerらが2015年にAJNRに発表した研究でも、再水分補給後に脳の体積が回復することが確認されているよ。
よ、よかった〜! でもさ、脳が縮むのは見た目の問題だけじゃないんだろ?
鋭いね。実はここからが本題なんだ。Ganioらが2011年にBritish Journal of Nutritionに発表した研究では、たった1〜2%の脱水で、男性では注意力、記憶力、反応速度が有意に低下することが明らかになったんだ。
1〜2%って……体重60kgの人なら600ml〜1.2リットルってことか。ペットボトル1本分じゃん!
そう。夏場に1時間ほど汗をかけば簡単に到達する量だよ。しかもこの研究では、男性は疲労感と緊張感が増加し、Armstrongらの2012年の研究では女性は頭痛、集中困難、気分の低下が報告されている。ただし女性の場合、認知パフォーマンス自体は脱水の影響を大きくは受けなかったとも報告されているんだ。
つまり水を飲まないだけで、頭は回らないわ、イライラするわ、不安になるわ……最悪じゃん!
その通り。さらにKemptonらの研究では、脱水状態の被験者が認知タスクをこなす際、前頭頭頂領域の脳活動が大幅に増加していたことが示されている。
脳が頑張りすぎてるってこと?
まさにそう。普段なら楽にできるタスクなのに、脳が余計なエネルギーを使わないとこなせなくなっている。つまり脳の『燃費が悪くなる』んだ。
え、それって……残業してるのに成果が出ないあの地球人と同じ状態じゃ……
その可能性は十分あるね。Masentoらが2014年にBritish Journal of Nutritionで発表したレビューでも、水分摂取が認知機能全般に影響を与えることが確認されている。特に注意力と短期記憶への影響が大きいんだ。
うわぁ……僕も漫画読みながら水飲んでないときあるけど、あれで内容が頭に入ってこなかったのは脱水のせいだったのか!
……いや、それは単に読み方の問題かもしれないけどね。
ひどい! でもさ、なんで水が足りないだけでこんなに脳がダメージを受けるんだ? もうちょっと詳しいメカニズムを教えてくれよ!
いい質問だね。メカニズムは複数あるんだ。まず第一に、脱水は血液量を減少させる。血液量が減ると、脳への酸素とグルコースの供給が低下して、神経細胞のエネルギー産生が落ちるんだ。
脳のガソリンが切れかけるわけか!
そういうことだね。第二に、水分不足は神経伝達物質のバランスを崩す。特にセロトニンなどの神経伝達物質の合成や伝達に影響が出る可能性が指摘されているんだ。
セロトニンって、気分を安定させるやつだろ? それが減ったら、そりゃイライラするし不安にもなるよな!
その通り。そして第三のメカニズムがさらに重要なんだ。脳には『グリンパティックシステム』という老廃物除去システムがあるんだけど、これは脳脊髄液の流れを利用して脳のゴミを掃除している。水分状態がこのシステムの効率に影響する可能性が研究で示唆されているんだ。
グリンパ……なんだって?
グリンパティックシステム。脳の中の『下水道システム』みたいなものだよ。脳が活動すると老廃物が溜まるんだけど、水分が十分にあれば脳脊髄液がそれを洗い流してくれる。でも水分が足りないと、この洗浄が滞るんだ。
脳のゴミ収集車が水不足でストライキするってこと!?
面白い例えだね。しかもStreitbürgerらの研究で興味深かったのは、脱水による脳の白質の減少パターンが、加齢による脳萎縮のパターンと類似していたことなんだ。
えぇぇぇ!? 水を飲まないだけで脳がアルツハイマーっぽくなるってこと!?
もちろん一時的な脱水でアルツハイマーになるわけじゃないよ。でも慢性的な水分不足が長期的に脳に悪影響を与える可能性は十分にある。ちなみに、厚生労働省のデータによれば、日本人の約70%が日常的に水分摂取不足の状態にあるとされているんだ。
70%!? ほとんどの地球人が脳を干からびさせてるじゃん!
人間の体は1日に約2.5リットルの水分を排出している。汗、呼吸、尿でね。食事から約1リットル、体内の代謝で約0.3リットルが補われるから、残りの約1.2リットル以上を意識的に飲む必要があるんだ。
じゃあ、どうすれば脳を守れるんだ!? 教えてくれよ、イーモリ!
まず大前提として、『喉が渇いた』と感じた時点で、すでに体重の1〜2%の水分が失われていることが多い。つまり、喉が渇く前に飲むのが重要なんだ。
先手必勝ってことか!
具体的には、起床時にコップ1杯、食事の前後に1杯ずつ、入浴前後に1杯、就寝前に1杯。これだけで最低限の水分は確保できるよ。
なるほど! よーし、僕は今日から1日3リットル飲むぞ! いや、5リットルだ!
……ヤーモリ、飲みすぎも危険だからね。水分の過剰摂取は低ナトリウム血症を引き起こす可能性がある。なんでも適量が大事なんだよ。
ガーン……じゃあ適量ってどのくらいなんだよ〜!
一般的な目安として、体重1kgあたり約30〜35mlと言われているよ。厚生労働省も「健康のため水を飲もう」と啓発しているね。体重60kgなら1日約1.8〜2.1リットルの水分を飲み物から摂取するのが理想的だね。運動や暑い環境ではさらに多く必要になるけど。
ふむふむ。ところでさ、カフェインの入った飲み物でもいいのか? 僕、イーモリみたいにコーヒーも好きだし。
コーヒーやお茶にも水分補給の効果はあるよ。以前は『カフェインは利尿作用があるからダメ』と言われていたけど、一般的には通常量のカフェイン摂取であれば、大きな脱水効果はないと考えられているよ。
よし、わかった! じゃあ僕は今から『超効率的水分補給マシン』を開発するぞ! 脳に直接水を注入して——
それは絶対にやめてね。
え〜。じゃあせめて、あのオフィスの地球人に水を飲ませてあげようよ! 宇宙船から念波を送って——
念波で水は飲めないよ。でもヤーモリ、今回の調査で一つ大事なことがわかったね。
うん。水を飲むだけで脳のパフォーマンスが上がるなんて、こんな簡単な脳のアップデート方法はないよな!
その通り。お金もかからないし、副作用もない。たった1杯の水が、脳の体積を守り、認知機能を維持し、気分まで安定させてくれる。地球人にとって最もコスパの良い脳のメンテナンスだね。
よーし、僕も水を飲むぞ! ……ゴクゴクゴク……あぁ〜、脳が膨らんでる気がする! 天才になった気がする!
……気のせいだと思うよ。
📚 参考文献
Streitbürger, D. P., Möller, H. E., Tittgemeyer, M., Hund-Georgiadis, M., Schroeter, M. L., & Mueller, K. (2012). Investigating structural brain changes of dehydration using voxel-based morphometry. PLOS ONE, 7(8), e44195. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0044195
Kempton, M. J., Ettinger, U., Foster, R., Williams, S. C. R., Calvert, G. A., Hampshire, A., … & Smith, M. S. (2011). Dehydration affects brain structure and function in healthy adolescents. Human Brain Mapping, 32(1), 71–79. https://doi.org/10.1002/hbm.20999
Ganio, M. S., Armstrong, L. E., Casa, D. J., McDermott, B. P., Lee, E. C., Yamamoto, L. M., … & Lieberman, H. R. (2011). Mild dehydration impairs cognitive performance and mood of men. British Journal of Nutrition, 106(10), 1535–1543. https://doi.org/10.1017/S0007114511002005
Armstrong, L. E., Ganio, M. S., Casa, D. J., Lee, E. C., McDermott, B. P., Klau, J. F., … & Lieberman, H. R. (2012). Mild dehydration affects mood in healthy young women. The Journal of Nutrition, 142(2), 382–388. https://doi.org/10.3945/jn.111.142000
Masento, N. A., Golightly, M., Field, D. T., Butler, L. T., & van Reekum, C. M. (2014). Effects of hydration status on cognitive performance and mood. British Journal of Nutrition, 111(10), 1841–1852. https://doi.org/10.1017/S0007114013004455
Biller, A., Reuter, M., Patenaude, B., Homola, G. A., Breuer, F., Bendszus, M., & Bartsch, A. J. (2015). Responses of the human brain to mild dehydration and rehydration explored in vivo by 1H-MR imaging and spectroscopy. AJNR American Journal of Neuroradiology, 36(12), 2277–2284. https://doi.org/10.3174/ajnr.A4508
厚生労働省. 健康のため水を飲もう講座. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000205776.pdf
🚀 宇宙人ヤーモリ調査隊 地球人観察日誌 No.112 参考文献は実在する学術論文・報告です。本文中には参考文献に直接対応しない一般的な知見も含まれています。
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