イーモリ!イーモリ!モニター見てくれ!あの地球人のおばあちゃん、なんか変な木の箱を抱えてるぞ!?武器か!?
落ち着いて。あれは「ウクレレ」という楽器だよ。弦を弾いて音を出す道具さ。
楽器?あのおばあちゃん、どう見ても70歳は超えてるぞ。今から楽器なんて始めて意味あるのか?若い頃からやらないと無駄じゃないのか?
それがね、京都大学の最新研究で驚くべきことがわかったんだ。70代から楽器を始めても、脳の老化を食い止められるという証拠が出たんだよ。
なにーーーーーーーーーー!?70代からでも!?僕らの星じゃ考えられないぞ!
Wang らの研究チームは、平均年齢73歳の高齢者53人を4年間追跡したんだ。全員、最初は楽器未経験者だったんだよ。
73歳から!?僕なんて先週新しいゲームのコントローラーすら覚えられなかったのに…。
初期の楽器トレーニングの後、53人のうち追跡できた参加者が2グループに分かれたんだ。ただし、これはランダムに振り分けたのではなく、参加者自身が続けるかどうかを選んだ結果だよ。13人はそのまま3年以上楽器の練習を続けた「継続グループ」。19人は楽器をやめて他の趣味に切り替えた「中止グループ」。
ほうほう。それで何が違ったんだ?
4年後にMRIで脳をスキャンしたところ、楽器をやめたグループでは「被殻(ひかく)」という脳の領域の灰白質が萎縮し、言語ワーキングメモリの成績も低下していた。でも、楽器を続けたグループではそのどちらも起きなかったんだ。
ひかく?何だそれ、美味しいのか?
被殻は大脳基底核の一部で、運動の制御や学習、さらには認知機能に深く関わっている部位だよ。楽器を弾くとき、指を正確に動かしたり、リズムに合わせたりする…その司令塔の一つが被殻なんだ。
つまり楽器を弾くと、この被殻っていうのが鍛えられて萎縮しなくなるってことか!?
そういうことだね。さらに面白いのは小脳の変化だよ。楽器を続けたグループでは、小脳の広い領域で活動が高まっていたんだ。
小脳って…あの脳の後ろの方についてる、しわしわの小さいやつか?
うん。小脳は運動の微調整やタイミングの制御だけでなく、最近の研究ではワーキングメモリや言語処理にも関わっていることがわかっている。楽器演奏は、この小脳を活性化させ続けるんだ。
すごいな!でもなんで楽器を弾くだけでそんなに脳が変わるんだ?漫画を読むのとは違うのか?
いい質問だね。楽器演奏は、脳にとって「究極のマルチタスク」なんだよ。考えてみて。楽譜を目で読む(視覚)、音を耳で確認する(聴覚)、指を正確に動かす(運動)、リズムを計算する(認知)、感情を込める(情動)…これらが全て同時に起きるんだ。
同時に!?僕なんてパンケーキを食べながら歩くだけで転ぶのに!?
ふふふ。Herholzらの研究によると、楽器演奏は聴覚野、運動野、前頭前野、そしてこれらを結ぶ白質の神経線維を同時に強化するんだ。まさに脳全体のトレーニングだよ。
白質?灰白質と何が違うんだ?
灰白質は神経細胞の本体が集まっている場所で、白質はその神経細胞同士をつなぐ「配線」のようなものだよ。楽器を弾く人の脳では、脳梁(のうりょう)という左右の脳をつなぐ最大の白質線維束が太くなることが確認されているんだ。
脳の配線が太くなる!?つまり脳のインターネット回線が光ファイバーにアップグレードされるようなものか!?
面白いたとえだね。Steeleらの研究では、特に7歳以前に楽器を始めた人の脳梁は白質の結合が顕著に強かったけれど、大人になってからでも白質の変化は起きる。それが今回の京都大学の研究でも70代で確認されたということだよ。
ふっふっふ。じゃあ僕も楽器を始めれば天才になれるな!ドラムとかどうだ!?ダダダダダダダッ!って!
天才になれるかは保証できないけど…。東北大学の瀧靖之教授らの研究も興味深いよ。楽器未経験の健常高齢者に16週間のグループ音楽セッションに参加してもらったところ、全般的な認知機能と言語性記憶が有意に改善し、気分状態にも改善する傾向がみられたんだ。
気分まで?楽器を弾くと楽しくなるってことか?
そうなんだ。楽器演奏はドーパミンの放出を促すんだよ。難しいフレーズを練習して弾けるようになったとき、脳の報酬系が活性化してドーパミンが放出される。さらにセロトニンの分泌も増加することが報告されていて、幸福感や精神的安定にもつながるんだ。
ドーパミン!僕がパンケーキを食べたときに出るやつだな!
まあ…そうだね。Moraesらの2018年のラットを使った動物実験では、音楽刺激によって尾状核-被殻でのセロトニン放出と、側坐核でのドーパミン代謝回転が増加することが確認されている。ヒトでも同様のメカニズムが働いていると考えられているんだ。
でもさ、前に「音楽を聴くだけで脳が改造される」って話もしてたよな?聴くだけじゃダメなのか?わざわざ弾く必要あるのか?
鋭いね。聴くだけでも脳には良い影響があるけど、「弾く」ことで得られる効果は段違いなんだ。演奏すると、聴覚だけでなく運動系、視覚系、認知系が同時にフル稼働する。いわば「聴く」が筋トレなら、「弾く」はトライアスロンのようなものだよ。
トライアスロン!?あの地球人の過酷なやつか!?僕は絶対やりたくない!
楽器のいいところは、トライアスロンと違って楽しみながらできるということだよ。特にグループで演奏する場合は、社会的なつながりも生まれる。東北大学の研究でもグループセッションの効果が強調されていたね。孤独は脳にとって大敵だから、仲間と一緒に音楽を楽しむことは二重の効果があるんだ。
なるほど…。じゃあ僕は地球調査のために「ヤーモリ・バンド」を結成するぞ!メンバーはイーモリと…あと部下のモブたちだ!
バンドはいいかもしれないね。ところで、もう一つ重要なことがあるんだ。京都大学の研究で特に注目すべきは「3年以上の継続」が鍵だったということ。短期間やってやめてしまうと効果は薄れてしまう。
3年…。僕、先月始めたジグソーパズルは3日で飽きたぞ。
だから楽しいと思える楽器を選ぶことが大切なんだ。ウクレレは比較的簡単に始められるし、ハーモニカやリコーダーもいい選択肢だよ。大切なのは「完璧に演奏すること」じゃなくて「継続して脳に刺激を与え続けること」なんだ。
よし!決めた!僕はエレキギターだ!ギュイーーーンって!ロックンロールだー!
…宇宙船の中でアンプを鳴らすのはやめてね。最後にまとめると、楽器演奏は脳にとって「最強の総合トレーニング」だ。被殻と小脳を守り、灰白質の萎縮を防ぎ、脳梁の白質を強化し、ドーパミンとセロトニンを放出させる。しかも70代から始めても効果があるという科学的証拠が出た。まさに「楽器を始めるのに、遅すぎることはない」んだよ。
参考文献
Wang, X., Yamashita, M., Guo, X., Stiernman, L., Kakihara, M., Abe, N., & Sekiyama, K. (2025). Never too late to start musical instrument training: Effects on working memory and subcortical preservation in healthy older adults across 4 years. Imaging Neuroscience, 3. https://doi.org/10.1162/IMAG.a.48
Shinada, T., Takahashi, M., Uno, A., Soga, K., & Taki, Y. (2025). Effects of group music sessions on cognitive and psychological functions in healthy older adults. Frontiers in Aging, 6, 1513359. https://doi.org/10.3389/fragi.2025.1513359
Herholz, S. C., & Zatorre, R. J. (2012). Musical training as a framework for brain plasticity: Behavior, function, and structure. Neuron, 76(3), 486-502. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2012.10.011
Steele, C. J., Bailey, J. A., Zatorre, R. J., & Penhune, V. B. (2013). Early musical training and white-matter plasticity in the corpus callosum: Evidence for a sensitive period. Journal of Neuroscience, 33(3), 1282-1290. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3578-12.2013
Moraes, M. M., Rabelo, P. C. R., Pinto, V. A., et al. (2018). Auditory stimulation by exposure to melodic music increases dopamine and serotonin activities in rat forebrain areas linked to reward and motor control. Neuroscience Letters, 673, 73-78. https://doi.org/10.1016/j.neulet.2018.02.058
🚀 宇宙人ヤーモリ調査隊 地球人観察日誌 No.107 架空の論文は使用していません。すべての参考文献は実在する学術論文・報告です。