おーい、イーモリ!ちょっとこれ見てくれよ!あの地球人の2人組、カフェでめちゃくちゃ盛り上がってるぞ!
ああ、本当だ。あの2人、すごく楽しそうに話しているね。身振り手振りも大きいし、笑いのタイミングもぴったり合ってる。
なんか息ぴったりっていうか…まるで1つの生き物みたいだな。テレパシーでも使ってるのか?
ふふふ、テレパシーじゃないよ。でもね、ヤーモリ…実は今あの2人の脳の中では、ものすごいことが起きているんだ。
ものすごいこと?脳が爆発でもしてるのか!?
爆発はしないよ。でもね、対面で会話している人間の脳は、文字通り「同期」するんだ。これを脳科学では「ニューラル・カップリング」、あるいは「脳間同期(インターブレイン・シンクロニー)」と呼んでいる。
に、ニューラル・カップリング!?なんだそのカッコいい名前は!必殺技みたいだな!
必殺技ではないけど、発見したのはプリンストン大学のウリ・ハッソン教授たちだよ。2010年に、話し手がfMRIの中で語った物語の脳活動を記録し、次にその録音を聞いた聞き手の脳活動を別々にfMRIで記録して、両者の脳活動パターンを比較する実験を行ったんだ。
2人同時に脳を測る!?そんなことできるのか?
実はこの実験では2人を「同時に」は測っていないんだ。話し手と聞き手を別々のタイミングでスキャンして、あとから脳活動の時間パターンを照合したんだよ。で、結果が驚きだったんだ。話し手が何かを語った時の脳活動と、聞き手がその録音を聞いた時の脳活動が、同じ領域でほぼ同じパターンを示していた。まるで脳がコピーされたみたいにね。
なにーーーーーー!?脳がコピーされる!?じゃあ僕がイーモリの話を聞いてる時、僕の脳はイーモリの脳のコピーになってるってことか!?
まあ、そこまで単純じゃないけどね。重要なのは、この「カップリング」の強さと、話の理解度が比例していたということなんだ。つまり、脳が強くシンクロしている人ほど、話の内容をよく理解していた。
え、じゃあ僕がイーモリの話を全然理解できてない時は…脳がシンクロしてないってこと?
…まあ、その可能性はあるね。
ガーン!でもさ、「ほぼ同じパターン」ってことは、タイムラグがあるってことだよな?
おっ、いい質問だね。確かに平均的には聞き手の脳は話し手の脳に数秒遅れて反応する。でもね、ハッソン教授たちはもっと面白いことを発見したんだ。
もっと面白いこと?
理解度が高い聞き手の脳には、話し手の脳活動よりも「先に」活動する領域があったんだ。つまり、相手が何を言うか予測して、脳が先回りしていた。
えええ!脳が未来予知してるってこと!?もしかして…僕もその能力を使えば、テストの答えを先回りして…
それは無理だよ。これは会話の文脈から次の展開を予測する脳の自然な機能であって、超能力じゃないからね。
ちぇっ。でもさ、それってすごくない?脳が勝手に相手の言葉を予測してるなんて。
すごいよ。そしてね、この脳間同期にはある重要な条件があるんだ。2012年にジャン(Jiang)らがfNIRS(近赤外分光法)という、実際に2人を同時にスキャンできる手法を使った実験で分かったんだけど…
条件?なんだなんだ?
対面で向かい合って会話した場合には、左下前頭回という脳の言語領域で強い同期が起きたんだけど…背中合わせで会話した場合や、一方的に話を聞くだけの場合には、この同期がほとんど起きなかったんだ。
え!?顔を見て話すかどうかで、脳の反応がそんなに違うのか!?
そう。アイコンタクトや表情、声のトーン、ジェスチャー…これらの非言語情報が、脳の同期を強力に後押しするんだ。
じゃあさ、LINEとかメールだとどうなるんだ?最近の地球人ってスマホばっかりいじってるけど。
実はね、2024年にシュワルツ(Schwartz)らが発表した研究で、母親と10代の子どもがLINEのようなテキストメッセージでやり取りした場合と、対面で会話した場合を比較したんだ。
おお、まさに現代の地球人の問題だな!で、結果は?
テキストでのやり取りでも脳間同期は「ある程度」起きたんだけど、対面での会話と比べると、前頭葉や側頭葉の複数の脳間接続が有意に弱かったんだ。つまり、テキストだけでは脳のシンクロが不完全なんだよ。
そんなに弱くなるのか!?ということは、僕が部下にメッセージで指示を出しても、ちゃんと伝わってない可能性があるってことか?
その通り。そしてもう1つ面白い発見があってね。テキストから対面に切り替えた時に、右前頭葉の脳間接続がどれだけ改善するかが、その後の行動の同期度と相関していたんだ。
つまり、対面に切り替えた時に脳がパッとシンクロする人ほど、その後もうまくコミュニケーションできるってこと?
その通り。さすがだね、ヤーモリ。
ふっふっふ。僕は隊長だからな!脳のシンクロ力は一級品なのだ!…たぶん。
そしてね、このニューラル・カップリングは1対1の会話だけじゃないんだ。ニューヨーク大学のスザンヌ・ディッカー(Suzanne Dikker)教授たちの2017年の研究では、教室でも同じ現象が確認されている。
教室!?先生と生徒の脳もシンクロするのか?
そう。ポータブルEEGヘッドセットを使って、実際の授業中の脳活動を測定したんだ。すると、授業に集中している生徒ほど、クラスメイトとの脳間同期が高かった。しかも、この同期の強さが学習効果を予測できたんだよ。
すげぇ!脳がシンクロしてる生徒ほど成績がいいってことか!?じゃあ僕も授業を受ければ…
ヤーモリが授業中に寝ないでいられたらね。
ぐっ…否定できない…。でもさ、なんで脳はわざわざ他の人の脳とシンクロするんだ?何のメリットがあるんだよ?
とてもいい質問だ。2021年のレイネロ(Reinero)らの研究では、チームの脳間同期の高さが、グループの問題解決パフォーマンスを予測できることが分かったんだ。しかも、メンバーの自己申告による結束感や協力行動よりも、脳間同期のほうがパフォーマンスをよく予測していたんだよ。
全部いいことだらけじゃないか!チームの脳をシンクロさせたら最強チームが作れるってことだな!
まさにそう。しかもね、ディッカー教授の実験では、授業前にペアの生徒同士が無言でアイコンタクトをしただけで、その後の脳間同期が高まり、お互いへの社会的親密感が増したんだ。
見つめ合うだけで!?それってめちゃくちゃ簡単じゃないか!…ということは、僕がイーモリの目をじーーーっと見つめれば…
…ヤーモリ、近い。近いよ。
あれ?効果ないな?
やり方の問題じゃなくて距離感の問題だよ…。でもね、ここから地球人の日常に活かせる大事なポイントがあるんだ。
日常に活かせるポイント!?聞きたい聞きたい!
まず1つ目。大事な話は対面でする。メールやチャットではなく、可能な限り直接会って話すことで、脳間同期が最大化されて、相互理解が深まる。
ふむふむ。地球人の職場で「ちょっといいですか」って声をかけるのは、実は脳科学的に正しかったんだな!
2つ目。会話中はアイコンタクトを心がける。目を合わせることで脳の同期が促進され、信頼関係や共感が強まる。スマホを見ながらの「ながら会話」は、シンクロを妨げてしまうんだ。
僕も漫画読みながらイーモリの話聞いてることあるけど…だから理解できてなかったのか!
…今気づいたの?3つ目。相手の話にしっかり反応する。うなずきや相づち、表情の変化といったフィードバックが、脳間同期を強化する。一方通行のコミュニケーションでは同期が起きにくい。
なるほどなるほど!だから地球人は電話よりもビデオ通話のほうがいいって言うのか!
ただし、先ほどのシュワルツらの研究が示すように、非言語情報が制限されるほど脳の同期は弱くなる傾向がある。やはり同じ空間にいて、表情や身体の動き、呼吸のリズムまで感じ取れる対面が、脳のシンクロを最も引き出しやすいんだ。
へぇ…。でもさ、この研究って親子関係にも使えるのか?地球人の親って子育てで悩んでる人多いだろ?
いい着眼点だね。実は2024年のリュウとハン(Liu & Han)の研究で、親子間の脳間同期について面白い発見があったんだ。親子で共同描画課題に取り組む時、左側頭頭頂接合部という脳領域で同期が高まり、その同期の強さは親子の協働の質やポジティブな感情の共有と相関していたんだ。
親と子の脳がシンクロするほど、いい協働ができてるってことか!?すげぇ!
しかも、この脳間同期の強さは、親が子どもの自主性を尊重する「自律性支持」の態度や、「情緒的温かさ」と関連していたんだ。つまり、温かく子どもの意思を尊重する親ほど、脳のシンクロが高まりやすかったということだよ。
つまり、子どもに優しく温かく接しながら一緒に過ごすと、脳のシンクロが高まりやすく、それが子どもの発達の良さと関連しているってことか!
その通り。ニューラル・カップリングは、人類が社会的な生き物として進化してきた証拠でもあるんだ。僕たちの母星の機械では実現できないけど、地球人の脳は生まれながらにして「つながる」ようにできている。
ふっふっふ。ということは…この脳シンクロ技術を応用すれば、地球人全員の脳を僕の脳とシンクロさせて、仲良くなることができるんじゃないか!?
…ヤーモリ、そもそも君の脳とシンクロしたら、みんなパンケーキのことしか考えられなくなるよ?
世界中の人間がパンケーキ好きになる…悪くないな!パンケーキ帝国の誕生だ!
…それは平和的とは言えないな。まとめると、地球人の脳には「対面で話すだけで相手の脳と同期する」という驚くべき能力が備わっている。この能力を最大限に活かすには、大事な人とは直接会って、目を見て、心を込めて会話することが大切なんだ。スマホの画面の中には、この脳の奇跡は宿らない。
なんだか今日はいい話だったな…。よし!僕も今日から部下たちとの会議は全部対面にするぞ!脳シンクロで最強チームを作るのだ!
いいね。でもまずは会議中に居眠りしない練習からだね。
ぐっ…それが一番難しいかもしれない…。
参考文献:
Stephens, G. J., Silbert, L. J., & Hasson, U. (2010). Speaker–listener neural coupling underlies successful communication. Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(32), 14425–14430. https://doi.org/10.1073/pnas.1008662107
Jiang, J., Dai, B., Peng, D., Zhu, C., Liu, L., & Lu, C. (2012). Neural synchronization during face-to-face communication. Journal of Neuroscience, 32(45), 16064–16069. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.2926-12.2012
Dikker, S., et al. (2017). Brain-to-brain synchrony tracks real-world dynamic group interactions in the classroom. Current Biology, 27(9), 1375–1380. https://doi.org/10.1016/j.cub.2017.04.002
Reinero, D. A., Dikker, S., & Van Bavel, J. J. (2021). Inter-brain synchrony in teams predicts collective performance. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 16(1-2), 43–57. https://doi.org/10.1093/scan/nsaa135
Davidesco, I., et al. (2023). The temporal dynamics of brain-to-brain synchrony between students and teachers predict learning outcomes. Psychological Science, 34(6), 633–643.
Schwartz, L., Levy, J., Hayut, O., Netzer, O., Endevelt-Shapira, Y., & Feldman, R. (2024). Generation WhatsApp: inter-brain synchrony during face-to-face and texting communication. Scientific Reports, 14, 2529. https://doi.org/10.1038/s41598-024-52587-2
Parenting links to parent–child interbrain synchrony: a real-time fNIRS hyperscanning study. (2024). Cerebral Cortex, 34(2), bhad533.