イーモリ〜!大変だ大変だ!地球のニンゲンたちが、なんか変なことになってるぞ!
どうしたの、ヤーモリ。また漫画の話?
違う違う!ほら、あの地球人を見てくれ!あのオフィスで働いてるニンゲン!
ああ、あのデスクワークのニンゲンか。…なにやら画面に向かって質問を打ち込んでいるね。
そうそう!あいつ、ここ数ヶ月ずーっとAIってやつに仕事を任せっきりなんだよ!企画書も、メールの返信も、報告書も、全部AIに書かせてるんだ!
ふむ。確かに最近、地球ではAIチャットボットの利用が爆発的に増えているね。
便利じゃん!僕もデバイスブックの代わりにAIに調査レポート書かせようかな〜。そしたら毎日パンケーキ食べながらゴロゴロできるぞ!
…ヤーモリ。実はそれ、かなり危険なことなんだ。
えっ?危険?AIが暴走して地球を征服しちゃうとか!?それなら僕たちの仕事がなくなっちゃう!
いや、そういう話じゃなくて。AIに頼りすぎると、ニンゲンの脳そのものが衰えてしまう可能性があるんだ。最近の研究で『認知的負債』や『認知的萎縮』と呼ばれる現象が注目されているんだよ。
に、認知的負債!?借金みたいなもんか!?脳がローン地獄!?
ふふふ、まあ例えとしてはそんなに遠くないかもね。2025年、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボのKosmynaらの研究チームが、とても興味深い実験をしたんだ。
MITってあの超エリート大学か!なにをやったんだ?
18歳から39歳の大学生54人を3つのグループに分けて、エッセイを書かせたんだ。第1グループはChatGPTを使って執筆、第2グループは検索エンジンを使用、第3グループは何のツールも使わずに自力で書いた。そしてその間、全員の脳波をEEG(脳波計)で測定したんだよ。
脳波まで測るとか本格的だな!で、どうなったんだ!?
結果は衝撃的だった。ChatGPTを使ったグループは、脳の接続性が弱くなり、記憶の定着率が低下し、さらに自分が書いた文章への当事者意識も薄くなっていたんだ。
なにーーーーーーーーーー!脳の接続性が弱くなる!?ってことは、脳がスカスカになるってことか!?
極端に言えばそういうこと。研究チームはこれを『認知的負債(Cognitive Debt)』と名付けた。AIに思考を委ねるたびに、脳が受動的になって、その負債が少しずつ蓄積していくんだ。しかも厄介なのは、AIの使用をやめても、この影響はすぐには回復しないということ。
す、すぐに回復しない!?つまり脳のローンは簡単に返済できないってことか!
そういうことだね。さらにもう一つ重要な研究がある。2025年にスイスのビジネススクールのGerlichが発表した研究では、666人を対象に調査を行った結果、AIツールの頻繁な使用と批判的思考能力の間に、有意な負の相関が見つかったんだ。
負の相関…つまりAIを使えば使うほど、考える力が落ちるってこと!?
その通り。そしてこの研究で特に注目すべきは年齢による違いだ。17歳から25歳の若い世代は、AIへの依存度が高く、批判的思考のスコアが低かった。一方で46歳以上の世代は、AIへの依存度が低く、批判的思考のスコアが高かったんだ。
若いニンゲンほど危ないのか!そりゃ生まれた時からスマホがある世代だもんな。
うん。この現象の背景にあるのが『認知的オフローディング(Cognitive Offloading)』という概念だ。
認知的オフローディング?荷物を降ろすみたいな?
いい感覚だね。まさにその通りで、本来は自分の脳で処理すべき認知作業を、外部のツールに『降ろす』ことなんだ。メモを取ったり、電卓を使ったりするのも認知的オフローディングの一種だけど、AIの場合はその規模が桁違いなんだよ。
計算を電卓に任せるのと、思考をまるごとAIに任せるのは、確かにレベルが違うな…。
そうなんだ。2024年にDergaaらがFrontiers in Psychologyに発表したオピニオン論文では、この現象を『AICICA(AI-Chatbots Induced Cognitive Atrophy)』、つまり『AIチャットボットによって引き起こされる認知的萎縮』と名付けて、今後検証すべき重要な仮説として提唱しているんだ。
認知的萎縮!?脳の筋肉が衰えるみたいなもんか!
まさにそのイメージだね。脳科学でよく言われる『Use it or lose it(使わなければ失われる)』という原則そのものだよ。筋肉と同じで、脳の神経回路も使わなければどんどん弱くなっていく。AIにアイデア出し、問題解決、文章作成を丸投げし続けると、それらの認知機能が衰退していくんだ。
ガーン!じゃあ僕がAIにレポートを書かせたら、僕の脳の機械もサビちゃうのか!?
…君の場合は脳に拡張機械が付いているから少し事情が違うけど、本質は同じだよ。機械だって使わなければメンテナンスの必要性を判断できなくなる。
うぅ…。でもさ、AIって創造性の面ではどうなんだ?僕の悪巧み…いや、作戦立案能力もAIに奪われちゃうのか?
面白い質問だね。実は2024年にScientific Reportsに掲載された研究では、AIの言語モデルは平均的なニンゲンよりも拡散的思考(いわゆる創造的な発想力)で高いスコアを出したんだ。
AIのほうが創造的!?じゃあニンゲンの負けじゃないか!
ところが、話はそう単純じゃない。別の研究(Koivisto & Grassini, 2023)では、特に創造性の高いニンゲンはAIを上回ることが示されているんだ。つまり、『最も創造的なニンゲン』はまだAIより優れている可能性がある。でも問題は、その創造的なニンゲンがAIに頼り続けると、自分の創造性まで低下する可能性があるということ。
せっかくの才能がもったいない!宝の持ち腐れってやつだな!
さらに興味深いのは、ハーバード・ビジネス・スクールのBastaniらも2024年に同様の問題を研究していてね(Bastani et al., 2024)。短期的にはAIの支援で生産性が上がるけれど、長期的には学習効果が損なわれるという結果が出ている。なぜなら、自分で課題に取り組んで苦労するという経験そのものが、学習には不可欠だからだ。
苦労することに意味があるのか…。僕は苦労が大嫌いだけど。
ふふふ。気持ちはわかるよ。でもね、脳というのは困難に直面して、それを乗り越えようとする時に最も成長するんだ。これを認知科学では『望ましい困難(Desirable Difficulty)』と呼ぶんだけど、AIはまさにこの困難を取り除いてしまう。
じゃあどうすればいいんだよ!AIを使うなってこと!?でもニンゲンたちはもうAIなしじゃ仕事できないって言ってるぞ!
使うなとは言わないよ。大切なのは『使い方』なんだ。ポイントは3つある。
3つ!教えてくれ!
まず第1に、『まず自分で考えてからAIに聞く』こと。最初からAIに丸投げするのではなく、自分なりの答えや草案を作ってから、AIをチェックや補助として使う。これだけで脳の活性化レベルが全く違ってくる。
なるほど!先に自分の頭を使ってからってことか。カンニングする前にまず問題を解いてみろってことだな!
…例えがアレだけど、まあそういうこと。第2に、『AIの回答を鵜呑みにせず、批判的に検証する』こと。AIが出した答えを検証するプロセスそのものが、批判的思考のトレーニングになるんだ。
AIの答えを疑えってことか。僕はイーモリの答えもたまに疑ってるぞ!
…それは単に聞いてないだけでは。まあいいか。第3に、『定期的にAIなしで思考する時間を確保する』こと。週に数回でいいから、AIもスマホも使わずに自分の頭だけで問題に向き合う時間を作る。筋トレと同じで、負荷をかけないと脳は鍛えられないからね。
脳の筋トレか!よし!僕も今日からAIなしで悪巧み…いや作戦を考えるぞ!
…悪巧みって言ったよね今。
いいもん。いいもん。どーせ僕はポンコツだもん…。でもポンコツなりに自分の頭で考えるポンコツになるもん!
ふふふ、そうだね。実はそれがとても大事なことなんだ。完璧じゃなくても、自分で考え抜くプロセスそのものが、脳を健康に保つ最良の方法なんだよ。地球のニンゲンたちにも、ぜひ覚えておいてほしいな。
よーし!まずはAIに頼らずに、新しいパンケーキレシピを自分で考案するぞ!チョコバナナホイップクリームマシマシパンケーキ!
…それは創造性というより食欲では。
参考文献
Kosmyna, N., Hauptmann, E., Yuan, Y. T., Situ, J., Liao, X.-H., Beresnitzky, A. V., Braunstein, I., & Maes, P. (2025). Your brain on ChatGPT: Accumulation of cognitive debt when using an AI assistant for essay writing task. arXiv preprint arXiv:2506.08872. https://arxiv.org/abs/2506.08872
Gerlich, M. (2025). AI Tools in Society: Impacts on Cognitive Offloading and the Future of Critical Thinking. Societies, 15(1), 6. https://doi.org/10.3390/soc15010006
Dergaa, I., Ben Saad, H., Glenn, J. M., Amamou, B., Ben Aissa, M., Guelmami, N., Fekih-Romdhane, F., & Chamari, K. (2024). From tools to threats: A reflection on the impact of artificial-intelligence chatbots on cognitive health. Frontiers in Psychology, 15, 1259845. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1259845
Hubert, K. F., Awa, K. N., & Zabelina, D. L. (2024). The current state of artificial intelligence generative language models is more creative than humans on divergent thinking tasks. Scientific Reports, 14, 3440. https://doi.org/10.1038/s41598-024-53303-w
Koivisto, M., & Grassini, S. (2023). Best humans still outperform artificial intelligence in a creative divergent thinking task. Scientific Reports, 13, 13601. https://doi.org/10.1038/s41598-023-40858-3
Bastani, H., Bastani, O., Sungu, A., Ge, H., Kabakcı, Ö., & Mariman, R. (2024). Generative AI Can Harm Learning. Working Paper, Wharton School, University of Pennsylvania. https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4895486