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2026年10月28日

アレキシサイミア(失感情症)とは?自分の感情がわからない原因と改善法

アレキシサイミア(失感情症)とは?自分の感情がわからない原因と改善法
ヤーモリ
(宇宙船のモニターを覗き込みながら)イーモリ、あの地球人を見てくれよ。カフェで友達に「最近どう?」って聞かれて、ずっと固まってるぞ。
イーモリ
(コーヒーを一口飲んで)本当だ。「うーん……別に……普通?」としか答えられていないね。表情もほとんど変わらない。
ヤーモリ
なんだよ、めちゃくちゃつまらないやつだな! 僕みたいにパンケーキ食べたら「うおおおお最高だぁぁぁ!」ってなればいいのに!
イーモリ
いや、つまらないわけじゃないんだ。彼は自分の感情が「わからない」んだよ。嬉しいのか悲しいのか、怒っているのか――自分でも区別がつかない。
ヤーモリ
え? 自分の気持ちがわからないって、そんなことあるのか?
イーモリ
あるんだ。これは「アレキシサイミア」――日本語では「失感情症」と呼ばれる特性だよ。(デバイスブックを開く)
ヤーモリ
アレキシ……サイミア? なんか必殺技みたいな名前だな。
イーモリ
ギリシャ語で「a」は欠如、「lexis」は言葉、「thymos」は感情。つまり「感情を表す言葉がない」という意味だね。1973年にハーバード大学の精神科医シフネオスが名付けた概念なんだ。
ヤーモリ
へぇ。じゃあ感情がないってこと?
イーモリ
ここが大事なポイントだ。感情が「ない」わけじゃない。感情は脳の中でちゃんと発生しているんだけど、それを「認識する」「名前をつける」「言葉にする」ことができないんだ。
ヤーモリ
あー、なんかモヤモヤはするけど、それが怒りなのか悲しみなのかわからない……みたいな感じか。
イーモリ
その通り。主に3つの特徴がある。1つ目は「自分の感情を識別するのが難しい」。2つ目は「感情を言葉で表現するのが難しい」。3つ目は「外的な出来事にばかり注意が向く」。これはトロント・アレキシサイミア尺度、通称TAS-20という検査で測定されるんだ。
ヤーモリ
ん? でも前に調べた「アンヘドニア」ってやつとは違うのか? あれも「楽しめない」みたいな話だったよな。
イーモリ
いい質問だね。アンヘドニアは「快感を感じられない」状態。つまり報酬系の問題だ。一方アレキシサイミアは「感情の認識と表現ができない」状態。感じてはいるんだけど、それが何なのかわからない。似ているようで、脳の中で起きていることがまったく違うんだ。
ヤーモリ
へぇ。で、地球人の中にどのくらいいるんだ、そのアレキシサイミアの人って。
イーモリ
一般人口の約10%、つまり10人に1人と推定されている。男性の方がやや多くて、フィンランドで30歳以上の5,454人を調べた大規模調査では男性11.9%、女性8.1%だったというデータもある。
ヤーモリ
10人に1人!? けっこう多いな!
イーモリ
さて、ここからが本題だ。なぜアレキシサイミアが起きるのか、脳の中で何が起きているのかを見ていこう。
ヤーモリ
(身を乗り出して)おっ、きたきた。脳の話だ!
イーモリ
まず重要なのが「前島皮質」と「前帯状皮質」だ。この2つの領域は脳の中で「内受容感覚」――つまり心臓のドキドキ、お腹の緊張、呼吸の変化といった体の内側の信号を感じ取る機能を担っている。
ヤーモリ
ふむふむ。体の信号と感情に何の関係があるんだ?
イーモリ
実はものすごく関係がある。僕たちが「怒っている」と感じるとき、脳は「心拍が上がっている」「拳を握っている」「胃がキュッとしている」といった体の信号をまとめて「これは怒りだ」と解釈している――そんな考え方が、いま有力なんだ。つまり、感情は体の信号の「ラベル付け」だと考えられているんだよ。
ヤーモリ
えーっ! 感情って心から湧くものじゃなくて、体の信号を脳が翻訳してるってこと!?
イーモリ
そういう見方だね。2026年にKrauseらが29〜60歳の一般の人575名を対象に、安静時の脳をfMRIで調べた研究では、アレキシサイミアの傾向が高い人ほど、前頭頭頂ネットワークの内部のつながり方や、島皮質を含む「顕著性ネットワーク」と注意ネットワークのつながり方が変化していたんだ。
ヤーモリ
つながり方が変わってる……。つまり、体からの信号を整理して意味づける回路が、うまくかみ合ってないってことか。
イーモリ
いい読みだね。さらに面白いのは神経化学の話だ。Ernstらが健康な18人を調べた小規模な研究では、アレキシサイミアの傾向が強い人ほど、左島皮質のグルタミン酸――興奮性の神経伝達物質――が多く、前帯状皮質のGABA――抑制性の神経伝達物質――も多い傾向があったんだ。
ヤーモリ
グルタミン酸が多いってことは、信号自体はたくさん来てるってこと?
イーモリ
研究者たちもそう解釈している。体からの信号は島皮質にちゃんと届いていて、むしろ体の変化には敏感なくらいなんだ。GABAの役割はまだはっきりしていないけど、前帯状皮質で抑制がかかって、その信号を「意識的な感情」に変換する段階がうまく進んでいないのかもしれない――そんな見方もある。ただ、これはまだ予備的な結果だよ。
ヤーモリ
なるほど! 電話は鳴ってるのに、受話器を取れない状態みたいなもんか!
イーモリ
イメージとしてはそんな感じだね。そして2026年のZhangらの研究では、43の脳画像研究で報告された部位を、大規模な脳データの上に重ね合わせる「ネットワークマッピング」という手法で分析した。すると、アレキシサイミアに関わる脳の構造や働きの変化は、皮質下ネットワーク、体性運動ネットワーク、辺縁系ネットワーク、腹側注意ネットワークにまたがっていることが示されたんだ。さらに、そのネットワークの分布がセロトニンやアセチルコリンのトランスポーターの分布と重なることも報告されている。
ヤーモリ
うわぁ、脳のあちこちが関わってるんだな。でもさ、感情がわからないだけなら、ある意味ラクなんじゃないか? 嫌なことがあっても傷つかないみたいな。
イーモリ
それが逆なんだ。KanoとFukudoの研究によると、アレキシサイミアの人は感情を意識レベルで処理できない代わりに、体の原始的な反応レベルでは信号がより強く出ている。
ヤーモリ
どういうこと?
イーモリ
「怒り」を認識できない人の体は、怒りの信号を処理できずに、代わりに頭痛、胃痛、慢性的な肩こりといった身体症状として表に出してしまうことがあるんだ。実際、アレキシサイミアは過敏性腸症候群のような「心身症」や、検査をしても異常が見つからない体の不調と結びつきやすいことが知られているよ。ストレスを感じているのに「自分はストレスを感じていない」と本気で思っている。でも体は正直だから、原因不明の腹痛や頭痛として現れる。
ヤーモリ
ガーン! それめちゃくちゃ厄介じゃないか! 病院行っても原因不明って言われちゃうやつだ!
イーモリ
さて、次は「生まれつきなのか、後から身につくものなのか」という話だ。
ヤーモリ
おっ、気になるな。遺伝なのか環境なのか。
イーモリ
デンマークで8,785組の双子を調べた大規模研究がある。それによると、アレキシサイミアの遺伝率は30〜33%。つまり約3分の1は遺伝的な要因だ。
ヤーモリ
3分の1が遺伝か。じゃあ残りは?
イーモリ
残りは、全体の50〜56%が「非共有環境」――つまり、同じ家庭で育ったきょうだいでも一人ひとり異なる経験によるもので、全体の12〜20%が家庭の雰囲気など、きょうだいが共有する環境によるものだ。具体的にどんな経験が影響するのかはまだ研究途上だけど、感情を表に出しにくい環境で育ったことや、つらい体験などが関わる可能性が指摘されているよ。
ヤーモリ
じゃあ、後から変わることもできるってことか?
イーモリ
できるよ。遺伝的な要素はあるけれど、脳は可塑性がある。適切なトレーニングで改善できることが、最新の研究で示され始めているんだ。
ヤーモリ
おおっ! じゃあどうすればいいんだ!? 教えてくれ!
イーモリ
2026年にWangらが開発したデジタル介入プログラムが非常に参考になる。これはアレキシサイミア傾向の強い47人を対象にしたランダム化比較試験で、4つのモジュールを組み合わせたアプリを1日15〜20分、2週間使ったグループは、スコアが平均70.09から51.91へ下がった。「アレキシサイミアあり」と判定される61点のラインを大きく下回るところまで改善したんだ。比較のグループでは、統計的に意味のある改善は見られなかった。参加者は中国の20代が中心で、効果が長続きするかはまだ確かめられていない予備的な研究だけどね。
ヤーモリ
70から52近くまで!? そんなに変わるのか!
イーモリ
1つ目は「注意バイアスの修正」。感情に関する情報に自然と注意が向くようにトレーニングするんだ。たとえば、感情を表した顔と無表情の顔が一瞬並んで、その後ろに出てくる星をすばやくタッチするゲーム。続けるうちに、感情のある顔に自然と注意が向くようになっていくんだ。
ヤーモリ
ゲームなら僕にもできそうだぞ!
イーモリ
2つ目は「マインドフルネス瞑想」。1回10分程度の瞑想で、体の内側の感覚――呼吸、心拍、筋肉の緊張――に意識を向ける練習をする。体の感覚に気づいて、それを感情と結びつける練習になるんだ。
ヤーモリ
あー、電話が鳴ってるのに取れない問題を解決するために、まず電話の音に集中する練習をするってことか。
イーモリ
うん、いい理解だ。3つ目は「感情語彙のトレーニング」。30種類の感情を表す言葉を学んで、それぞれの違いを比較したり、どんな場面で感じるかをシナリオで練習する。
ヤーモリ
30種類!? 嬉しい、悲しい、怒る、楽しい……あと何があるんだ?
イーモリ
「焦燥感」「郷愁」「畏敬」「罪悪感」「恥」「誇り」「嫉妬」「感謝」……感情って実はものすごく種類が多いんだ。語彙が増えると、モヤモヤしていた感覚に名前をつけられるようになる。名前がつくと、脳はそれを処理できるようになるんだよ。
ヤーモリ
なるほどなぁ。「なんかモヤモヤする」が「あ、これは嫉妬だ」ってわかるだけで、だいぶ違うのか。
イーモリ
まさにそう。心理学ではそれを「感情の粒度を上げる」と言うんだ。そして4つ目は「認知的・表現的ライティング」。最近あった出来事について、自分がどう考えてどう感じたかを書き出して、とらえ方のクセを見直したり、空いた椅子に相手が座っていると想像して気持ちを伝える「エンプティチェア」の形で書いたりする練習だね。ただの日記より、ずっと構造化されているんだ。
ヤーモリ
へぇ、書くだけでいいのか! 僕も「今日のパンケーキ日記」をつけようかな。「本日のパンケーキ、ホイップクリームの量が少なくて激おこ」とか。
イーモリ
……まあ、それも感情を言語化する練習ではあるかな。大事なのは「体の感覚」と「そのとき起きた出来事」と「感情の名前」をセットで書くことだよ。たとえば「会議でプレゼンしたとき、手が震えて胃がキュッとした。これは緊張だったんだ」というように。
ヤーモリ
でもさ、いきなりそんな専門的なプログラムを受けられない人はどうすればいいんだ?
イーモリ
いい質問だね。日常生活でもできることがあるよ。まず、1日に3回「今、体のどこに何を感じているか」を意識してみること。朝起きたとき、昼食のあと、寝る前。肩が凝っている、胸がもやもやする、お腹が軽い、といった身体感覚に注目するんだ。
ヤーモリ
ふむふむ。体のスキャンみたいなもんか。
イーモリ
そうだね。もう1つは、映画やドラマを観たときに「今、自分はどう感じたか」を言葉にしてみること。登場人物の感情を想像するのもいい練習になる。自分の感情を直接探るのが難しい人でも、物語を通じてなら取り組みやすいんだ。
ヤーモリ
なるほどなぁ。で、このアレキシサイミアの人って、もし原因不明の体調不良がずっと続いてたら、どうすればいい?
イーモリ
いい質問だ。ここは大事なところだから真面目に言うよ。原因のわからない頭痛、腹痛、動悸、不眠……こういった身体症状が2週間以上続くなら、それは「気のせい」でも「根性の問題」でもない可能性がある。まずは内科などで体の検査を受けて、異常が見つからなければ心療内科や精神科に相談することを強く勧める。アレキシサイミア自体は病気ではないけれど、うつ病や不安障害、心身症と結びつきやすいことがわかっているからね。
ヤーモリ
そうだよな。体が出してるSOSを見逃しちゃいけないってことだ。
イーモリ
うん。感情は、脳が体の信号を「翻訳」したもの――そう考えると、その翻訳がうまく働きにくいのがアレキシサイミアだ。でも脳には可塑性がある。感情の語彙を増やし、体の声に耳を傾ける練習を続ければ、翻訳の精度は少しずつ上げていけるんだ。
ヤーモリ
よーし! じゃあ僕もさっそく感情日記をつけるぞ! えーっと……(ペンを持つ)「今の気持ち……パンケーキ食べたい」。
イーモリ
……それは感情じゃなくて欲求だよ、ヤーモリ。

参考文献

Krause, E., Klinger-König, J., Goerlich, K. S., et al. (2026). How alexithymia shapes functional networks: Insights from a general population study. European Psychiatry, 69(1), e45.

Zhang, L., Cui, X., Ou, Y., Liu, Y., Lang, B., & Guo, W. (2026). Brain network mapping of structural and functional alterations associated with alexithymia. Translational Psychiatry, 16, 505.

Ernst, J., Böker, H., Hättenschwiler, J., Schüpbach, D., Northoff, G., Seifritz, E., & Grimm, S. (2014). The association of interoceptive awareness and alexithymia with neurotransmitter concentrations in insula and anterior cingulate. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 9(6), 857–863.

Kano, M., & Fukudo, S. (2013). The alexithymic brain: The neural pathways linking alexithymia to physical disorders. BioPsychoSocial Medicine, 7(1), 1.

Wang, W., Xu, Y., & Pan, D. (2026). A mechanism-based digital intervention for alexithymia: Design, development, and validation of a multi-modal approach. Digital Health, 12, 1–17.

Jørgensen, M. M., Zachariae, R., Skytthe, A., & Kyvik, K. (2007). Genetic and environmental factors in alexithymia: A population-based study of 8,785 Danish twin pairs. Psychotherapy and Psychosomatics, 76(6), 369–375.

Sifneos, P. E. (1973). The prevalence of “alexithymic” characteristics in psychosomatic patients. Psychotherapy and Psychosomatics, 22(2–6), 255–262.

Mattila, A. K., Salminen, J. K., Nummi, T., & Joukamaa, M. (2006). Age is strongly associated with alexithymia in the general population. Journal of Psychosomatic Research, 61(5), 629–635.

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