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2026年10月11日

脳が現実と想像を見分ける「リアリティ信号」とは?見間違いの原因と防ぎ方

脳が現実と想像を見分ける「リアリティ信号」とは?見間違いの原因と防ぎ方
ヤーモリ
イーモリ、今モニターに映ってる地球人を見てくれ。さっきから何回も振り返ってるぞ。
イーモリ
ああ、あの人か。誰かに呼ばれた気がして振り返ったけど、実際には誰もいなかった……という状況だね。
ヤーモリ
え、幽霊か? 地球にはそういうのがいるって漫画で読んだぞ!
イーモリ
幽霊じゃないよ。あれは脳の「リアリティ・モニタリング」という仕組みが一瞬ずれただけだ。簡単に言うと、脳が「今の体験は本当に起きたことか、それとも自分の頭の中で作り出したものか」を仕分けるシステムのことだよ。
ヤーモリ
へえ! 脳にそんな仕組みがあるのか。でも普通、見えたものは見えたものだろ?
イーモリ
そう思うだろう? でも実は、脳は常に「予測」と「想像」をフル回転させている。その内部で作り出した像と、実際に目から入ってきた情報が、脳の中では似たような回路で処理されるんだ。だからこそ、外の世界から来た信号なのか内部で作り出したものなのかを判別する専用の監視システムが必要になる。それがリアリティ・モニタリングだよ。Dijkstraら(2026)の総説でも、想像のために知覚システムを再利用することで生じるこの監視問題が詳しく論じられている。
ヤーモリ
想像してるときと本当に見てるときで、脳の使ってる場所が重なってるってことか。ややこしいな!
イーモリ
そう、ややこしい。でも2025年にUCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)のダイクストラ博士たちが『Neuron』という一流の科学雑誌に発表した研究が、まさにその仕組みを解明したんだ。26人の被験者をfMRIスキャナーに入れて、画面にうっすら現れる縞模様を見つけてもらう実験をした。
ヤーモリ
縞模様? なんか地味な実験だな。
イーモリ
ここからが面白い。被験者には「縞模様をイメージしてください」とも指示してあった。つまり、本物が薄く映し出されるタイミングと、自分で想像しているだけのタイミングが重なるように設計されていたんだ。
ヤーモリ
それ、絶対ごっちゃになるだろ!
イーモリ
その通り。研究チームが注目したのは、側頭葉の下側にある「紡錘状回」という領域だ。紡錘状回の活動の強さが、被験者の「今のは本物だった」という判断と直結していた。活動が強ければ「本当に見えた」と判断し、弱ければ「見えなかった」と判断する。研究チームはこの活動を『リアリティ信号』と呼んだ。
ヤーモリ
リアリティ信号! なんかゲームの必殺技みたいだな。
イーモリ
しかも重要なのは、このリアリティ信号は知覚と想像の両方の活動を足し合わせた合計値なんだ。数式で書くと「RS = P + I」。Pは知覚からの信号、Iは想像からの信号。そしてこの合計値を読み取って「現実か、そうでないか」を最終判定しているのが、脳の奥深く、前頭葉と側頭葉の境目の溝(外側溝)の奥にある「前島皮質」という場所だ。
ヤーモリ
つまり脳の中に「本物メーター」があって、一定のラインを超えたら『はい、本物!』って判定されるってことか。
イーモリ
まさにそういうイメージだ。前島皮質にはいわば閾値……ボーダーラインがあって、リアリティ信号がそれを超えたら「リアル」、超えなかったら「想像」と判定する。普段は問題なく機能している。実際に目から入ってきた信号は想像よりもずっと強いからね。
ヤーモリ
じゃあ、さっきの地球人みたいに「聞こえた気がする」ってなるのは、どういうときなんだ?
イーモリ
大きく3つのパターンがある。1つ目は、想像の信号が異常に強くなるケース。何かを強く期待していたり不安で過敏になっているとき、脳内のイメージだけで閾値を超えてしまう。「名前を呼ばれた気がした」というのは典型的なこれだよ。ちなみにダイクストラらの実験は視覚が対象だけど、同じ仕組みが聴覚や触覚でも働いている可能性が高いと考えられている。
ヤーモリ
確かに、僕もパンケーキのことを考えてると焼ける匂いがする気がするぞ……。
イーモリ
……それは期待しすぎだね。2つ目は、閾値の判定が甘くなるケース。Waters(2018)らの総説によると、24〜48時間の睡眠不足で知覚の歪みが始まり、48〜90時間になると本格的な幻覚が出現すると報告されている。睡眠不足が何らかの形でリアリティ・モニタリングの精度を下げているのかもしれない。
ヤーモリ
48時間!? 僕、漫画の新刊が出ると徹夜で読んじゃうけど、あれヤバいのか?
イーモリ
1晩の徹夜でも軽い影響が出る可能性はあるし、慢性的な寝不足は精度をじわじわ下げる。そして3つ目は、知覚と想像の信号が似すぎて区別できなくなるケース。Segoviaら(2009)の研究では、小学生の子どもたちに「自分そっくりのアバターがシャチと泳ぐ映像」をVRで見せたところ、実際に泳いだと記憶してしまうケースが報告されている。興味深いことに、想像するだけの条件でも同じくらい偽の記憶が生じた。鮮明な体験は、VRであれ想像であれ、脳のリアリティ判定を誤らせることがあるんだ。
ヤーモリ
それって怖くないか? 脳のメーターが壊れたら、ずっと幻覚を見続けることになるのか?
イーモリ
実際、統合失調症の幻覚はこのメカニズムの不調と関わっている可能性がある。Simonsら(2017)の総説では、リアリティ・モニタリングに関わる前頭前野の機能異常が統合失調症の幻覚と関連していることが指摘されている。ダイクストラ博士たちも、この研究が将来的に統合失調症の理解に役立つ可能性を示唆しているが、この研究自体は健康な人が対象であり、患者での検証は今後の課題だ。
ヤーモリ
じゃあ、普通の地球人がこの「本物メーター」を正常に保つには、どうすればいいんだ?
イーモリ
まず一番大事なのは、やはり十分な睡眠だ。先ほど述べたように、睡眠不足は判定の精度を下げるかもしれない。だからこそ十分な睡眠を確保することが、正確な判定を維持する基本だ。
ヤーモリ
寝るのが大事って、前にも聞いた気がするぞ。
イーモリ
何度でも言うよ、それくらい重要だからね。2つ目は、メタ認知を鍛えること。「今、自分は本当に見ているのか、それとも考えているだけなのか」を意識的に区別する習慣をつけると、リアリティ・モニタリングの精度が上がる可能性がある。マインドフルネス瞑想がこの訓練に役立つのではないかという考え方もあるよ。
イーモリ
そして3つ目は、ストレスの管理だ。慢性的なストレスは脳の認知機能に影響を与えることが知られており、リアリティ・モニタリングにも影響する可能性がある。適度な運動や、信頼できる人との会話など、日常的なストレスケアを心がけることが大切だ。
ヤーモリ
ところで、この本物メーターの感度って、生まれつき決まってるのか? それとも変わるのか?
イーモリ
個人差はある。想像力が非常に豊かな人は、内部で生成するイメージが強いぶん、閾値に近づきやすいのではないかと推測されている。ただし、睡眠やストレスなどの生活習慣によって変わる部分もありそうだ。不摂生が続けば誰でも「あれ、今のは本当?」が増える可能性がある。
ヤーモリ
じゃあ、たまに「あれ?」って思うくらいなら普通ってことだな。
イーモリ
そうだ、誰にでもある。名前を呼ばれた気がした、スマホが震えた気がした……こうした軽い錯覚は日常的なものだ。ただし、それが繰り返し起きる、あるいは「聞こえるはずのない声が聞こえる」「見えるはずのないものが見える」という状態が続いて生活に支障が出ているなら、何らかの問題が起きているサインかもしれない。早めに医療機関に相談するのが確実だ。
ヤーモリ
なるほどなー。よーし。僕はこの研究を応用して、部下たちに「隊長の命令はすべてリアルである」と脳に刷り込む装置を開発するぞ!
イーモリ
……それ、やってることが完全に洗脳だよ。
ヤーモリ
ふっふっふ。リアリティ信号を僕の都合のいいように書き換えれば、誰も僕をポンコツだなんて言わなくなるはずだ!
イーモリ
ヤーモリ、君がポンコツなのは脳のリアリティ信号に関係なく、紛れもない現実だよ。
ヤーモリ
ガーン! ……いいもん。いいもん。どーせ僕はポンコツだもん……パンケーキ食べよ。

参考文献

Dijkstra, N., von Rein, T., Kok, P., & Fleming, S. M. (2025). A neural basis for distinguishing imagination from reality. Neuron, 113(15), 2536–2542.e4.
https://doi.org/10.1016/j.neuron.2025.05.015

Simons, J. S., Garrison, J. R., & Johnson, M. K. (2017). Brain mechanisms of reality monitoring. Trends in Cognitive Sciences, 21(6), 462–473.
https://doi.org/10.1016/j.tics.2017.03.012

Waters, F., Chiu, V., Atkinson, A., & Blom, J. D. (2018). Severe sleep deprivation causes hallucinations and a gradual progression toward psychosis with increasing time awake. Frontiers in Psychiatry, 9, 303.
https://doi.org/10.3389/fpsyt.2018.00303

Segovia, K. Y., & Bailenson, J. N. (2009). Virtually true: Children’s acquisition of false memories in virtual reality. Media Psychology, 12(4), 371–393.
https://doi.org/10.1080/15213260903287267

Dijkstra, N., Fleming, S. M., & Shea, N. (2026). Why do we need imagination–reality monitoring? Neuroscience of Consciousness, 2026(1), niag048.
https://doi.org/10.1093/nc/niag048

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